「また外れ案件だ…」
配属された現場に行ってみたら、聞いていた話と全然違う。スキルアップできるはずだったのに、やっているのは単純作業ばかり。周りに相談できる人もいなくて、毎日が憂鬱。
もしあなたがこのような状況にいるなら、まず伝えたいことがあります。それは、あなたが悪いわけではないということです。
SESの「案件ガチャ」は、業界の構造的な問題であり、個人の努力だけでは完全にコントロールできない部分があります。しかし、外れを引いてしまった後の対処法や、次に外れを引かないための対策は存在します。
この記事では、SESの案件ガチャで外れを引いてしまった方に向けて、外れ案件の具体的な特徴から、現状を改善する対処法、そして案件ガチャから完全に脱却する方法まで、徹底的に解説します。
目次
SESの「案件ガチャ」とは？外れを引く確率と実態
まず、SESにおける「案件ガチャ」とは何かを明確にしておきましょう。
案件ガチャとは、SESエンジニアがどの現場に配属されるかが運任せになっている状況を、ソーシャルゲームのガチャになぞらえた表現です。当たりの案件もあれば、外れの案件もあり、どちらに配属されるかは事前に完全には予測できません。
なぜ案件ガチャが発生するのか
SES（システムエンジニアリングサービス）は、エンジニアを客先に常駐させることで収益を得るビジネスモデルです。このモデルでは、エンジニアの「稼働率」が重視されます。
稼働率とは、エンジニアが案件に参画している割合のことです。SES企業にとって、エンジニアが待機状態（案件に入っていない状態）になることは、直接的な売上減少を意味します。
そのため、エンジニアの希望やスキルよりも、「空いている案件にとにかく入れる」ことが優先されがちです。これが案件ガチャの根本的な原因です。
外れを引く確率はどれくらい？
明確な統計データはありませんが、IT業界で働くエンジニアを対象にした各種調査から推測すると、SESエンジニアの約3〜4割が現在の案件に不満を持っているとされています。
独立行政法人情報処理推進機構（IPA）の「IT人材白書」によると、IT人材の転職理由として「仕事内容への不満」「スキルアップ機会の不足」が上位に挙げられています。これらはまさに、外れ案件に配属された際に感じる不満と一致します。
案件ガチャで「外れ」と判断すべき7つのパターン
「外れ案件」の定義は人によって異なりますが、客観的に見て問題がある案件には共通の特徴があります。以下の7つのパターンに当てはまる場合は、外れ案件と判断してよいでしょう。
パターン1：スキルアップにつながらない単純作業ばかり
最も多い外れパターンが、スキルアップにつながらない業務ばかりを任されるケースです。
具体的には、テストの実行作業のみ（テスト設計は別の人が担当）、Excel・Wordでのドキュメント作成、データ入力や集計作業、電話対応や庶務的な業務などが該当します。
これらの業務自体が悪いわけではありませんが、長期間にわたってこれしかさせてもらえない場合は、エンジニアとしてのキャリア形成に支障をきたします。
パターン2：聞いていた内容と実態が異なる
面談時に説明された業務内容と、実際の業務が大きく異なるケースです。
「Java開発の案件」と聞いていたのに、実際はExcelでの管理業務がメインだった。「チーム開発」と言われていたのに、一人で保守作業を任された。このようなミスマッチは、SES業界では珍しくありません。
これは、SES企業の営業担当が案件の実態を正確に把握していない、または意図的に良い面だけを伝えていることが原因です。
パターン3：技術的に古すぎる環境
使用している技術やツールが古すぎて、市場価値のあるスキルが身につかないケースです。
例えば、すでにサポートが終了したバージョンの言語やフレームワーク、10年以上前に構築されたレガシーシステムの保守のみ、バージョン管理システムを使っていない（または非常に古いものを使用）といった環境です。
もちろん、レガシーシステムの保守経験も一定の価値はあります。しかし、キャリアの初期段階で最新技術に触れる機会がないと、将来的な選択肢が狭まる可能性があります。
パターン4：教育・サポート体制がない
質問できる先輩やメンターがおらず、放置されているケースです。
SESでは客先に一人で常駐することも多く、自社の先輩や同僚がいない環境で働くことになります。客先の社員も「外部の人間」として扱い、十分なサポートをしてくれないことがあります。
特に経験の浅いエンジニアにとって、相談相手がいない環境は成長の妨げになります。
パターン5：人間関係に問題がある
客先の担当者からパワハラを受けている、チーム内の雰囲気が悪い、コミュニケーションが取りにくいといったケースです。
SESエンジニアは「外部の人間」という立場上、理不尽な扱いを受けても声を上げにくい状況にあります。しかし、人間関係の問題は精神的な負担が大きく、放置すると心身の健康に影響を及ぼします。
パターン6：労働環境が劣悪
長時間労働が常態化している、残業代が適切に支払われない、休暇が取りにくいといった労働環境の問題です。
厚生労働省の調査によると、IT業界は他業界と比較して長時間労働の傾向があります。特に炎上プロジェクトに配属されると、終電帰りや休日出勤が続くこともあります。
パターン7：通勤時間が極端に長い
自宅から現場までの通勤時間が片道1時間半〜2時間以上かかるケースです。
SESでは、案件ごとに勤務地が変わります。自宅から近い現場もあれば、遠い現場もあり、これも案件ガチャの一部です。
往復3〜4時間の通勤は、体力的にも時間的にも大きな負担となり、自己学習の時間も削られてしまいます。
以下の項目に3つ以上当てはまる場合は、外れ案件の可能性が高いです。
- 入社時に聞いていた業務内容と違う
- 3ヶ月以上、同じ単純作業しかしていない
- 新しい技術やスキルを学ぶ機会がない
- 質問や相談ができる人がいない
- 客先の人間関係にストレスを感じている
- 残業が月40時間を超えている
- 通勤時間が片道1時間半以上
- この案件で1年後の自分が成長している姿が想像できない
外れ案件に配属されてしまう3つの原因
なぜ外れ案件に配属されてしまうのでしょうか。その原因を理解することで、対策を立てやすくなります。
原因1：SES企業の営業力・交渉力不足
SES企業の営業担当は、クライアント企業との間で案件の条件を交渉します。しかし、営業力の弱いSES企業は、クライアントの言いなりになりがちです。
「この単価でこの業務をやってほしい」という要望をそのまま受け入れてしまい、エンジニアにとって不利な条件の案件が増えてしまいます。
また、多重下請け構造の下層にいるSES企業ほど、案件の選択肢が限られ、外れ案件の割合が高くなる傾向があります。
原因2：エンジニアの希望を聞かない社内体制
エンジニアの希望やキャリアプランを考慮せず、「空いている案件に入れる」ことだけを優先するSES企業も存在します。
このような企業では、エンジニアは単なる「稼働リソース」として扱われ、個人のスキルアップや成長は二の次になります。
原因3：情報の非対称性
案件に参画する前に得られる情報は限られています。面談では良いことしか言われず、実際に入ってみないとわからない部分が多いのが実情です。
特に経験の浅いエンジニアは、面談時に「この案件が外れかどうか」を見抜くスキルがまだ身についていないため、外れを引きやすくなります。
案件ガチャで外れを引いたときの5つの対処法
外れ案件に配属されてしまった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。状況を改善するための5つの方法を紹介します。
対処法1：自社の営業担当に相談する
まず最初にすべきことは、自社の営業担当や上司に現状を伝えることです。
「聞いていた内容と違う」「スキルアップにつながらない」「人間関係に問題がある」など、具体的な事実をベースに相談しましょう。
- 感情的にならず、事実を客観的に伝える
- 「〇〇が嫌だ」ではなく「〇〇という状況で困っている」という伝え方をする
- 自分がどうしたいのか（案件変更、業務内容の調整など）を明確にする
- 相談内容と回答を記録しておく
優良なSES企業であれば、エンジニアの声を聞いて、案件の変更や業務内容の調整を検討してくれます。逆に、相談しても何も対応してくれない企業は、エンジニアを大切にしていない証拠です。
対処法2：現場での業務改善を試みる
すぐに案件を変えられない場合は、現在の案件内でできる改善を試みましょう。
例えば、単純作業しか任されていない場合、「他の業務も経験したい」と客先の担当者に申し出てみる。技術的な課題があれば、自分から改善提案をしてみる。このような主体的な行動が、状況を変えるきっかけになることがあります。
ただし、これは客先の理解がある場合に限られます。申し出ても無視される、または「余計なことをするな」と言われる環境であれば、別の対処法を検討しましょう。
対処法3：案件の契約期間を確認する
SESの案件には契約期間があります。多くの場合、3ヶ月〜6ヶ月単位で契約が更新されます。
契約更新のタイミングで案件を変更することは、比較的スムーズに行えます。自社の営業担当に「次の更新タイミングで案件を変えたい」と伝え、早めに動いてもらいましょう。
契約期間の途中で案件を抜けることは、クライアントとの関係上、難しい場合があります。ただし、違法な労働環境やハラスメントがある場合は、契約期間に関係なく、すぐに対応を求めるべきです。
対処法4：外れ案件でもスキルを身につける工夫をする
外れ案件に配属されてしまっても、完全に無駄な時間にする必要はありません。
- 業務時間外に自己学習を行い、ポートフォリオを作成する
- 現場で使われている技術やツールについて、深く理解する努力をする
- テスト業務であれば、テスト設計やテスト自動化について学ぶ
- ドキュメント作成であれば、わかりやすい文書作成スキルを磨く
- 業務効率化のためのツールや手法を自主的に取り入れる
どんな業務にも、学べる要素はあります。ただし、これは「外れ案件でも我慢しろ」という意味ではありません。現状を改善する努力をしながら、並行して次のステップ（案件変更や転職）の準備を進めることが大切です。
対処法5：転職を視野に入れる
自社に相談しても改善されない、そもそも相談できる雰囲気がない、このような状況であれば、転職を視野に入れましょう。
案件ガチャは、SESというビジネスモデルに起因する問題です。今の会社で案件を変えても、また外れを引く可能性はあります。根本的に解決したいのであれば、SES以外の働き方（自社開発、受託開発、社内SEなど）への転職を検討することが有効です。
外れ案件でのストレスから、不眠、食欲不振、慢性的な疲労感、出社前の吐き気などの症状が出ている場合は、キャリアよりも健康を最優先してください。必要に応じて、心療内科やメンタルクリニックの受診も検討しましょう。
次こそ外れを引かないための事前対策
案件変更や転職で新しい案件に入る際、次こそ外れを引かないために、事前にできる対策があります。
対策1：面談時に具体的な質問をする
SESでは、案件に参画する前にクライアントとの面談があります。この面談は、案件の実態を知る貴重な機会です。
- 具体的にどのような業務を担当しますか？（抽象的な回答には深掘りする）
- 使用する言語・フレームワーク・ツールは何ですか？
- チーム構成はどうなっていますか？（何人中、自社メンバーは何人か）
- 質問や相談ができる体制はありますか？
- 残業はどれくらいありますか？（繁忙期の実態も確認）
- 過去にSESエンジニアが参画した実績はありますか？その方はどのような業務をしていましたか？
質問に対して曖昧な回答しか得られない場合や、質問すること自体を嫌がられる場合は、外れ案件の可能性が高いです。
対策2：自社の営業担当から情報を引き出す
面談の前に、自社の営業担当から案件の詳細情報を聞き出しましょう。
営業担当は、過去に同じ案件や同じクライアントに参画したエンジニアの情報を持っている場合があります。「この案件に過去参画した人はいますか？」「その人の評価はどうでしたか？」といった質問をすることで、案件の実態を事前に把握できます。
対策3：契約条件を確認する
案件の契約条件（勤務時間、残業の扱い、勤務地など）を事前に確認しましょう。
特に、残業代の計算方法（固定残業代の有無、超過分の支払い）、勤務地の変更可能性、契約期間と更新条件については、曖昧にせず、書面で確認することが重要です。
対策4：断る勇気を持つ
面談の結果、外れ案件の可能性が高いと感じたら、断る勇気を持ちましょう。
SES企業によっては、「この案件しかない」「断ったら待機になる」とプレッシャーをかけてくることがあります。しかし、外れ案件に入って消耗するよりも、少し待ってでも良い案件を探す方が、長期的にはプラスになります。
もちろん、待機期間が長引くと収入面での不安もあります。その場合は、待機中に自己学習を進めながら、転職活動を並行して行うことも選択肢の一つです。
案件ガチャから完全に脱却する方法
案件ガチャは、SESというビジネスモデルに内在する問題です。根本的に解決するためには、SES以外の働き方を選ぶことが有効です。
選択肢1：自社開発企業への転職
自社でWebサービスやアプリを開発・運営している企業です。
自社開発企業では、一つのプロダクトに長期的に関わることができます。案件ガチャはなく、自分の仕事が直接ユーザーに届く実感を得られます。
ただし、自社開発企業は人気が高く、選考のハードルも高い傾向にあります。ポートフォリオの作成や、技術力のアピールが必要です。
選択肢2：受託開発企業への転職
クライアントから開発案件を受注し、自社内で開発を行う企業です。
受託開発でも、プロジェクトごとに業務内容は変わりますが、SESのように客先に常駐するわけではありません。自社のチームで開発を行うため、一体感があり、教育体制も整っていることが多いです。
選択肢3：社内SEへの転職
一般企業の情報システム部門で働く選択肢です。
社内SEは、開発よりも運用・保守がメインになることが多いですが、一つの会社に腰を据えて働けます。ワークライフバランスを重視したい方に向いています。
SESで培った現場経験は、ベンダーコントロールやシステム導入プロジェクトで活かせます。
選択肢4：優良SES企業への転職
すべてのSES企業が案件ガチャを放置しているわけではありません。エンジニアの希望を聞き、スキルアップにつながる案件を紹介してくれる優良なSES企業も存在します。
- エンジニアの希望を聞いて案件を選定している
- 案件の単価や情報をエンジニアに開示している
- 教育・研修制度が充実している
- 待機期間中も給与が満額支給される
- 案件を断る権利がエンジニアにある
- エンジニアの定着率が高い（離職率が低い）
選択肢5：フリーランスエンジニアになる
フリーランスになれば、案件を自分で選ぶことができます。気に入らない案件は断り、自分のスキルや希望に合った案件だけを受けることが可能です。
ただし、フリーランスには営業力や自己管理能力が求められます。また、収入が不安定になるリスクもあります。最低でも2〜3年の実務経験を積んでから検討することをおすすめします。
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よくある質問
まとめ：案件ガチャに振り回されないキャリアを築こう
この記事では、SESの案件ガチャで外れを引いてしまった方に向けて、外れ案件の特徴、対処法、そして案件ガチャから脱却する方法を解説しました。
- 案件ガチャはSESの構造的な問題であり、あなたが悪いわけではない
- 外れ案件には7つの共通パターンがある（スキルアップできない、聞いていた内容と違うなど）
- 外れを引いたら、まず自社に相談。改善されなければ転職を検討
- 次に外れを引かないためには、面談時の質問と断る勇気が重要
- 案件ガチャから完全に脱却するには、SES以外の働き方への転職が有効
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