
「SIerでの経験は自社開発企業では評価されないのでは...」
そんな不安を抱えているSIerエンジニアの方は多いのではないでしょうか。
実際、私がWeb系企業で採用担当をしていた時、SIer出身者の書類選考通過率は正直低めでした。しかし、面接まで進んだ方の中には、想像以上に優秀な方が多く、最終的に活躍しているメンバーもたくさんいます。
つまり、SIerから自社開発企業への転職で重要なのは、いかに「誤解を解き」「強みを適切にアピールできるか」なのです。
この記事では、実際の面接で聞かれる質問と、採用担当者の心を動かす回答例を、包み隠さずお伝えします。
目次
SIerと自社開発企業の文化の違いを理解する
開発スタイルの根本的な違い
SIerでは、要件定義書に基づいて確実に動くシステムを作ることが最優先。一方、自社開発企業では、ユーザーの反応を見ながら素早く改善を繰り返すことが求められます。
「仕様書通りに作る」から「仕様から考える」への転換。これが、SIer出身者が最初に戸惑うポイントです。
例えば、SIerでは「画面遷移図の通りに実装する」ことが仕事でしたが、自社開発では「なぜこの画面遷移なのか」「もっと良いUXはないか」を自ら考え、提案することが期待されます。
スピード感の違い
SIerでの開発は、数ヶ月から年単位のプロジェクトが一般的。リリースまでに何度もレビューと承認のプロセスを経ます。
対して自社開発企業では、毎日のようにデプロイが行われます。朝思いついたアイデアが、夕方にはユーザーに届いている。そんなスピード感に最初は圧倒されるかもしれません。
「完璧を目指す」より「まず出してみる」。この考え方の転換ができるかどうかが、転職成功の分かれ目になります。
チーム構成と役割分担
SIerでは、PM、PL、PG、テスターなど役割が明確に分かれています。自分の担当範囲が決まっており、その中で確実に仕事をこなすことが求められます。
自社開発企業では、一人のエンジニアが設計から実装、テスト、時にはカスタマーサポートまで幅広く担当します。「それは私の仕事ではない」という考え方は通用しません。
SIer出身者が自社開発企業で評価される強み
大規模システムの設計・開発経験
数百万人が使うシステムの開発経験は、実は大きな強みです。スケーラビリティを考慮した設計、パフォーマンスチューニング、障害対応の経験は、自社開発企業でも高く評価されます。
特に、スタートアップが成長フェーズに入った時、SIerで培った「きちんとした開発プロセス」の知識が役立ちます。ドキュメント作成能力、テスト設計能力は、意外と自社開発企業に不足しているスキルなのです。
品質へのこだわり
SIerで叩き込まれた品質意識は、決して無駄ではありません。「バグを出さない」「セキュリティを考慮する」「保守性の高いコードを書く」これらは、自社開発企業でも必要不可欠なスキルです。
ただし、品質と開発スピードのバランスを取ることが重要。状況に応じて、適切な品質レベルを判断できる柔軟性を身につける必要があります。
プロジェクトマネジメント能力
WBSの作成、進捗管理、リスク管理など、SIerで身につけたプロジェクトマネジメントスキルは強力な武器になります。
自社開発企業では、エンジニアがプロジェクトをリードすることも多く、この経験は確実にプラスに働きます。
面接官が抱くSIer出身者への懸念と払拭方法
「技術力が低いのでは?」という懸念
残念ながら、多くの面接官は「SIer=エクセル仕様書ばかり書いている」というイメージを持っています。
この懸念を払拭するには、GitHubでのコード公開が最も効果的。業務外でも継続的にコードを書いていることを証明しましょう。モダンな技術スタック(React、Vue.js、Docker、Kubernetes等)を使った個人プロジェクトがあれば、強力なアピール材料になります。
「受け身な姿勢なのでは?」という懸念
「指示待ち」「言われたことしかやらない」これもSIer出身者に対する典型的な偏見です。
面接では、自ら提案して改善した経験を具体的に語りましょう。たとえ小さなことでも、「自動化ツールを作って工数を削減した」「チーム内で勉強会を主催した」など、主体的に動いた経験をアピールすることが大切です。
「スピード感についていけるか?」という懸念
週次リリース、日次デプロイという環境に適応できるか。これは面接官が最も気にするポイントの一つです。
個人開発でCI/CDパイプラインを構築した経験や、アジャイル開発の勉強をしていることをアピールしましょう。「完璧でなくても、まずリリースして改善する」という考え方に共感していることを伝えることが重要です。
面接で必ず聞かれる質問と模範回答
Q1.「なぜSIerから自社開発企業に転職したいのですか?」
NGな回答:
「SIerの仕事がつまらないから」「エクセルばかりで技術力が身につかないから」
模範回答:
「SIerでの経験を通じて、エンドユーザーの反応を直接見ながら開発したいという思いが強くなりました。現在は、納品後のシステムがどう使われているか見えないことが多く、もどかしさを感じています。自社開発企業であれば、ユーザーの声を聞きながら継続的に改善できる点に魅力を感じています。また、技術選定から携われる環境で、より良いプロダクトを作りたいと考えています」
Q2.「うちはスピード重視ですが、品質とのバランスはどう考えますか?」
NGな回答:
「品質は絶対に妥協できません」「スピードを優先します」(極端な回答)
模範回答:
「フェーズと機能の重要度によって判断すべきだと考えています。例えば、決済機能のような critical な部分は品質を優先し、A/Bテストのような実験的機能は素早くリリースして反応を見る。SIerでの経験から、どこに時間をかけるべきか判断する力は身についていると思います。MVP(Minimum Viable Product)の考え方を理解し、適切なバランスを取れるよう心がけたいです」
Q3.「今まで使ってきた技術スタックを教えてください」
NGな回答:
「Java、Oracle、JP1...」(レガシーな技術だけを羅列)
模範回答:
「業務ではJava、Spring Boot、Oracleを中心に使用していましたが、個人的にはモダンな技術にも取り組んでいます。最近はNext.jsとTypeScriptでWebアプリを作成し、バックエンドはGo言語で実装しました。インフラはAWSを使い、GitHub ActionsでCI/CDも構築しています。業務で使えていない技術も、キャッチアップを欠かさないようにしています」
Q4.「チーム開発で意見が対立した時、どう対処しますか?」
NGな回答:
「上司の判断に従います」「多数決で決めます」
模範回答:
「まず、お互いの意見の背景にある理由を理解することから始めます。技術的な対立であれば、小さくプロトタイプを作って検証することを提案します。SIerでの経験から、ドキュメントだけで議論するより、実際に動くものを見せる方が建設的だと学びました。最終的には、プロダクトの成功という共通の目標に向かって、最適な選択をすることが大切だと考えています」
Q5.「コードレビューで指摘されることに抵抗はありませんか?」
NGな回答:
「大丈夫です」(これだけでは説得力がない)
模範回答:
「むしろ積極的にフィードバックをいただきたいです。SIerでは形式的なレビューが多かったのですが、OSSへのコントリビュート経験を通じて、厳しいレビューこそが成長の機会だと実感しました。特に、自社開発企業のコードの書き方やベストプラクティスを早く吸収したいので、遠慮なく指摘していただければと思います」
Q6.「残業や休日対応についてどう思いますか?」
NGな回答:
「SIerでも徹夜や休日出勤は当たり前でした」(ブラック自慢)
模範回答:
「基本的には、適切な計画と効率的な開発で残業を最小限にすべきだと考えています。ただし、障害対応やリリース前の critical な局面では、柔軟に対応する必要があることも理解しています。SIerでの経験から、計画的な開発の重要性は身に染みていますが、スタートアップの緊急性も理解しているつもりです」
技術面接を突破するための準備
コーディングテスト対策
自社開発企業の多くは、コーディングテストを実施します。SIerではあまり経験がないかもしれませんが、避けて通れません。
LeetCodeやAtCoderで、最低でも週3問は解く習慣をつけましょう。特に以下の分野は頻出です:
配列・文字列の操作、ハッシュテーブルの活用、再帰とメモ化、基本的なソートアルゴリズム、計算量の理解(Big O記法)。
重要なのは、解けることだけでなく、思考プロセスを言語化できること。「なぜこのアプローチを選んだか」を説明できるよう練習しましょう。
システム設計面接の準備
「Twitterのようなサービスを設計してください」といった質問が出ることがあります。
SIerでの大規模システム経験は、ここで活きます。ただし、オンプレミス前提ではなく、クラウドネイティブな設計を意識しましょう。マイクロサービス、キャッシュ戦略、データベースの選定、スケーリング戦略などを体系的に学んでおくことが大切です。
ポートフォリオの準備
GitHubで公開するポートフォリオは、転職成功の鍵を握ります。以下の点を意識して準備しましょう:
モダンな技術スタックを使用(React/Vue.js + Node.js/Go など)、テストコードを必ず書く、CI/CDパイプラインを構築、READMEを充実させる(なぜ作ったか、工夫した点、使用技術)、定期的にコミット(草を生やす)。
特に、SIerでの業務知識を活かしたアプリケーション(例:承認ワークフローシステム、帳票生成ツール)は、差別化要因になります。
転職活動の具体的な進め方
転職活動のタイミング
SIerから自社開発企業への転職は、タイミングが重要です。プロジェクトの切れ目を狙うのが理想的ですが、それを待っていては機会を逃すかもしれません。
まず、現職を続けながら準備を進めましょう。ポートフォリオ作成、技術ブログの執筆、勉強会への参加など、3〜6ヶ月かけて実績を作ります。その上で、本格的な転職活動は2〜3ヶ月に集中させるのが効率的です。
応募企業の選び方
いきなりメガベンチャーを狙うのは現実的ではありません。段階的なアプローチを取りましょう。
第一段階として、SIer出身者を積極採用している企業を狙います。求人に「SIer出身者歓迎」と明記している企業や、BtoB SaaS企業は狙い目です。これらの企業は、SIerの文化を理解しており、転職後のギャップも小さめです。
第二段階として、技術力を身につけた後、より技術志向の強い企業にチャレンジします。
転職エージェントの活用
SIerから自社開発企業への転職では、適切なエージェント選びが成功の鍵になります。
「元SIer」のキャリアアドバイザーがいるエージェントは、あなたの状況を深く理解してくれます。また、技術に詳しいエージェントを選ぶことも重要。技術的な強みを適切に企業に伝えてもらえます。
複数のエージェントに登録し、提案内容を比較することをおすすめします。
入社後に成功するための心構え
最初の3ヶ月が勝負
自社開発企業に入社したら、最初の3ヶ月で「使える人材」であることを証明する必要があります。
まず、開発環境のセットアップやデプロイフローなど、基本的な部分で躓かないよう、事前に予習しておきましょう。Git、Docker、CI/CDツールの使い方は必須です。
また、コードレビューでは積極的に質問し、会社のコーディング規約や文化を素早く吸収することが大切です。
SIer時代の良い習慣は残す
すべてを捨てる必要はありません。ドキュメントを書く習慣、テストを重視する姿勢、リスクを考慮する視点。これらは自社開発企業でも評価されます。
ただし、過度に形式的にならないよう注意。「なぜそれが必要か」を常に考え、状況に応じて柔軟に対応することが求められます。
継続的な学習を怠らない
自社開発企業では、技術の進化スピードが速く、常に新しいことを学ぶ必要があります。
業務時間外の学習は必須と考えてください。技術書を読む、OSSにコントリビュートする、個人プロジェクトを進める。この積み重ねが、1年後、2年後の大きな差になります。
年収交渉のポイント
初年度は期待値を下げる
残念ながら、SIerから自社開発企業への転職では、初年度の年収は下がることが多いです。平均して10〜20%のダウンは覚悟しておきましょう。
ただし、これは一時的なもの。実力を証明できれば、2年目以降は大幅な昇給も期待できます。特にストックオプションがある企業なら、長期的には大きなリターンの可能性もあります。
評価制度を確認する
面接時に、評価制度について必ず確認しましょう。年功序列ではなく、成果主義の企業を選ぶことが重要です。
「入社後、どのような成果を出せば昇給するか」を具体的に聞いておくと、入社後の目標設定にも役立ちます。
失敗しないための注意点
「自社開発=楽園」という幻想を捨てる
自社開発企業にも、それなりの苦労があります。ユーザーからの厳しいフィードバック、売上へのプレッシャー、少人数での幅広い対応。
SIerとは違う種類のストレスがあることを理解し、覚悟を持って転職することが大切です。
技術だけでなくビジネス視点も持つ
自社開発企業では、「なぜこの機能が必要か」「この開発にどれだけコストをかけるべきか」といったビジネス視点が求められます。
SIer時代は「仕様書通りに作る」ことが仕事でしたが、自社開発では「何を作るべきか」から考える必要があります。この視点の転換ができないと、活躍は難しいでしょう。
完璧主義を手放す
SIerで培った「バグゼロ」「完璧な設計」への執着は、時に足かせになります。
70点でもいいから素早くリリースし、ユーザーの反応を見て改善する。この「リーンスタートアップ」の考え方に慣れる必要があります。
実際の転職成功事例
事例1:金融系SIer(5年)→FinTechスタートアップ
Aさん(28歳)は、金融系SIerで5年間、銀行システムの開発に携わっていました。
転職成功のポイントは、金融知識を活かしたポートフォリオ作成。個人向け家計簿アプリを作成し、金融API連携や複式簿記の知識をアピール。技術スタックもReact + Node.js + AWSと、モダンな構成にしました。
面接では「金融規制に詳しいエンジニア」としての価値を訴求。初年度年収は50万円下がりましたが、2年目には前職を上回る年収を獲得しています。
事例2:大手SIer(10年)→BtoB SaaS企業
Bさん(35歳)は、大手SIerでPMとして10年のキャリアがありました。
マネジメント経験を活かし、テックリード候補として採用。技術面での不安はありましたが、個人でWebサービスを開発・運用していることをアピール。また、大規模プロジェクトの経験が、スケールフェーズにある企業にマッチしました。
入社後は、開発プロセスの改善や若手エンジニアの育成で貢献。技術とマネジメントの両輪で活躍しています。
事例3:地方SIer(3年)→フルリモートのWeb系企業
Cさん(26歳)は、地方のSIerで官公庁向けシステムを開発していました。
地方在住のままフルリモートで働ける企業を探し、コミュニケーション能力の高さをアピール。GitHubでの活発な活動、技術ブログでの発信、オンライン勉強会での登壇経験が評価されました。
リモートワークでも成果を出せることを証明し、入社1年で正社員からテックリードに昇進しています。
まとめ:SIerの経験は決して無駄ではない
SIerから自社開発企業への転職は、確かに簡単ではありません。文化の違い、技術スタックの違い、働き方の違い。乗り越えるべき壁は多くあります。
しかし、SIerで培った経験は決して無駄ではありません。大規模開発の経験、品質への意識、プロジェクトマネジメント能力。これらは、自社開発企業でも必ず活きるスキルです。
大切なのは、自分の強みを理解し、それを新しい環境でどう活かすかを明確にすること。そして、不足している部分は謙虚に学び、素早くキャッチアップすることです。
「SIer出身だから」と卑下する必要はありません。むしろ、両方の世界を知っているからこそ提供できる価値があるはずです。
もし転職活動で迷ったら、専門のキャリアアドバイザーに相談することをおすすめします。特に、SIerから自社開発企業への転職支援実績が豊富なエージェントなら、あなたの状況に合わせた具体的なアドバイスがもらえるでしょう。
一歩踏み出す勇気さえあれば、新しいキャリアの扉は必ず開きます。SIerでの経験を武器に、自社開発企業で新たな挑戦を始めてみませんか?
あなたの転職が成功することを、心から応援しています。