
SES(システムエンジニアリングサービス)で働くエンジニアにとって、「現場ガチャ」という言葉は非常に重く、切実な問題です。
「次の現場はどんな技術を使っているだろうか」 「人間関係は良好だろうか」 「スキルアップにつながる業務だろうか」
自分のキャリアが、まるで“ガチャ”のように運で決まってしまう。この状況に不安や不満を抱え、キャリアの主導権を取り戻したいと考える方は少なくありません。
なぜ、この「現場ガチャ」は発生してしまうのでしょうか?
それは個人の運が悪いからではなく、SESというビジネスモデルが持つ「構造的な要因」に起因しています。
この記事では、SESの現場ガチャが起こるメカニズムを解明し、その上で「ハズレ」を引かないための「優良SES企業の見抜き方」、そして根本的な解決策である「自社開発企業への転職手順」を、体系的に解説します。
この記事で解決できる悩み
- なぜかスキルが身につかない現場ばかりにアサインされる…
- 「現場ガチャ」という不透明な仕組みに疲弊している
- 今の会社が「優良」なのか「ハズレ」なのか判断基準が欲しい
- ガチャから脱出し、キャリアの主導権を取り戻したい
- SESから自社開発企業へ転職するための具体的な方法が知りたい
目次
SES「現場ガチャ」とは?なぜ発生するのか

まずは、問題の根本を理解するために、SESの仕組みとガチャの発生要因を深掘りします。
そもそもSES(システムエンジニアリングサービス)とは
SESとは、クライアント(客先)に対して、エンジニアの技術力(労働力)を「準委任契約」に基づいて提供するサービスです。
特徴: エンジニアは自社(SES企業)に雇用されながら、客先のオフィスに常駐して働きます。
契約: 準委任契約では、「作業時間」に対して対価が支払われます。「成果物の完成」を目的とする請負契約とは異なり、指揮命令権は雇用元であるSES企業にあります(ただし、実態として客先から指示が出ているケースは「偽装請負」として問題になります)。
現場ガチャが発生する3つの「構造的要因」
「運が悪い」のではなく、「そうなりやすい仕組み」があるのです。
要因1:多重下請け構造(商流の深さ)
IT業界、特にSIer(システムインテグレーター)が元請けとなる大規模プロジェクトでは、ピラミッド型の多重下請け構造が一般的です。
- 元請け(プライムSIer): 顧客から直接案件を受注
- 二次請け: 元請けから案件の一部を請け負う
- 三次請け: 二次請けから…
- 四次請け、五次請け…:
このピラミッドの下層(三次請け、四次請け)になればなるほど、以下のような問題が発生します。
- 単価の低下(中抜き): 上位企業にマージンが抜かれ、末端のエンジニアに支払われる単価が下がるため、給与が上がりにくい。
- 業務内容の悪化: 上流工程(要件定義・設計)は上位企業が担当し、下流工程(テスト、運用保守、雑務)ばかりが回ってくる。
あなたの会社が「何次請け」の案件を主に扱っているかが、ガチャの確率を左右する最大の要因です。
要因2:営業都合の案件アサイン(待機=悪)
SES企業にとって、エンジニアが特定の現場の契約を終え、次の現場が決まるまでの「待機期間」は、売上が立たない「赤字」状態です。
そのため、会社の営業担当者は、エンジニアのキャリアプランよりも「とにかく早く次の現場を決めること」を優先しがちです。
エンジニアの希望:「次はSpring Bootを使った開発がしたい」
営業の都合:「今すぐ決まるのは、COBOLの保守案件しかない。これで我慢してもらおう」
このようなミスマッチが常態化すると、エンジニアはスキルアップの機会を失い、「ハズレ現場」を渡り歩くことになります。
要因3:契約の不透明性
多くのSES企業では、エンジニア自身が「自分がいくらで客先に提供されているか(単価)」を知りません。
単価が不透明だと、以下のような弊害が生まれます。
正当な評価がされない: 現場でどれだけ高い評価を得ても、その成果が自社に伝わらず、昇給に反映されない。
モチベーションの低下: 自分が会社にどれだけ貢献しているか分からず、「駒として使われている」感覚が強くなる。
もし現在の現場が以下に当てはまるなら、早急に自社の営業担当に相談するか、転職を検討すべきサインです。
- スキルが陳腐化する: 使用技術がJava 6、VB.NET、Excel方眼紙など、明らかにレガシー。
- 成長実感がない: テスト実行・エビデンス取得、議事録作成、雑務ばかりで、設計やコーディングをさせてもらえない。
- 契約が不安定: プロジェクトの都合で、1〜3ヶ月単位で現場を転々とさせられる。
- 労働環境が過酷: 客先のプロパー社員だけが定時で帰り、常駐者だけが深夜残業をしている。
- 明確な指揮命令違反: 客先の社員から、直接的な業務命令(残業指示、業務内容の変更)を受けている(偽装請負の疑い)。
もうガチャは引かない!「優良SES企業」を見抜く5つのチェックポイント

「SES=悪」と決めつけるのは早計です。中には、エンジニアのキャリアを第一に考え、高い給与水準と成長環境を提供する「優良SES企業(高還元SES、モダンSESとも呼ばれる)」も存在します。
転職活動時や、現在の会社を評価する際に、以下の5つのポイントをチェックしてください。
チェック1:還元率・単価が公開されているか(単価連動型)
最も重要な基準です。
優良な企業: エンジニアに単価を公開し、「単価の◯%を給与として還元する」という明確な「還元率(例:70〜80%)」を定めている。
危険な企業: 単価や還元率が完全にブラックボックス。
単価連動型であれば、エンジニアが現場で単価アップの交渉をすれば、それが直接自分の給与に反映されるため、モチベーション高く働けます。
チェック2:案件選択制・キャリア面談が機能しているか
エンジニアに「案件を選ぶ権利」があるかどうかは、ガチャを回避する上で不可欠です。
優良な企業: 複数の案件候補を提示し、エンジニアが面談に行った上で「この現場に行きたい/行きたくない」を表明できる(案件選択制)。
危険な企業: 営業担当者が「次はここに行って」と一方的に決めてしまう。
また、定期的に(現場アサイン時だけでなく)営業担当やキャリアアドバイザーとの面談があり、「3年後にどうなりたいか」というキャリアパスを真剣に相談できるかも重要です。
チェック3:商流が浅いか(プライム・二次請けまで)
多重下請け構造の弊害を避けるため、その会社が取引している案件の「商流」を確認しましょう。
優良な企業: 「プライム(元請け)案件80%」「エンド直(顧客と直接契約)がメイン」「二次請けまでしか受けない」など、商流の浅さをアピールしている。
危険な企業: 「大手SIerとの取引多数」としか書かれておらず、実態が三次請け、四次請けメイン。
チェック4:教育制度・資格支援が充実しているか
「待機期間」を「赤字」ではなく「学習期間」と捉えているかも、良い会社かの見極めポイントです。
- AWS、Azureなどのクラウド資格取得費用を全額負担してくれるか。
- 外部技術研修(Udemy、スクール費用)の補助があるか。
- 待機期間中に、自社内でモダン技術の研修を受けさせてくれるか。
チェック5:エンジニア同士の繋がり・帰属意識があるか
SESは客先に常駐するため、自社への帰属意識が希薄になりがちです。
優良な企業: 定期的な帰社日(任意参加)、社内チャット(Slackなど)での技術交流、勉強会の開催などを通じて、エンジニア同士が「自社の同僚」として繋がる機会を設けている。
危険な企業: 入社式以外、自社のエンジニアに会ったことがない。営業担当からの連絡もメールのみ。
「ガチャ」からの根本脱出。自社開発企業への転職を成功させる5ステップ

優良SES企業への転職も一つの手ですが、「ガチャ」という仕組み自体から完全に脱出し、キャリアの主導権を握る根本的な解決策は「自社開発企業」への転職です。
SESで断片的なスキルしか積めていないと感じていても、正しい手順を踏めば、20代後半~30代からでも転職は十分に可能です。
ステップ1:現状把握と「スキルの棚卸し」
SESエンジニアの職務経歴書は、「A社で3ヶ月テスト」「B社で半年保守」のように、経験がブツ切りになりがちです。
「色々な現場で、C#/.NETを使った開発を5年間経験しました」
→これでは、採用担当者はあなたが「何が出来るのか」を判断できません。
まずは、本記事(※前回の記事を想定)で解説した「技術の棚卸し」を行います。
【棚卸しのポイント】
- プロジェクト単位で書き出す: どの現場(業界)で、どんな役割(PG, SE)を、どれくらいの期間担当したか。
- 技術を詳細に:「C#/.NET」だけでなく、「.NET Framework 4.5, Windows Forms, SQL Server」など、バージョンやミドルウェアまで詳細に。
- 「課題解決」を書く: これが最重要。現場の「言われたこと」だけでなく、「非効率なテストを手動から自動化した」「保守性を高めるリファクタリングを提案した」など、主体的に動いたことを捻り出します。
ステップ2:Web系で通用する「ポートフォリオ」の作成
自社開発企業、特にWeb系企業は「あなたが現場で何をしてきたか」よりも「あなたがゼロから何を創れるか」を見ています。
SESでの業務経験だけでは「モダンな開発スキル」を証明しにくいため、ポートフォリオ(自作のWebサービスやアプリ)の作成がほぼ必須となります。
【ポートフォリオのポイント】
- 「CRUD+α」を実装する: ログイン機能、投稿機能(CRUD)、検索機能など、Webサービスの基本を押さえる。
- モダンな技術を選ぶ: 例)バックエンド:Spring Boot (Java), .NET Core (C#), Ruby on Rails, Laravel (PHP) / フロントエンド:React, Vue / インフラ:AWS (EC2, S3, RDS) または Heroku。
- GitHubで公開する: ソースコードは必ずGitHubで公開し、採用担当者がコードを見られるようにします。
ステップ3:モダン技術のキャッチアップ(独学・スクール)
ポートフォリオ作成と並行し、自社開発企業で求められるモダン技術を学びます。
SESでの経験がレガシー(.NET Framework, 古いJava)であるほど、この「学び直し」が重要です。
働きながら独学でやり切る自信がない場合は、プログラミングスクールを活用して、短期間で集中的にスキルを習得するのも賢明な戦略です。
自社開発転職に向けたスキルアップにおすすめのスクール
RUNTEQ(ランテック)

テックアカデミー

ステップ4:「自社開発に強い」転職サービスを選ぶ
SES脱出において、エージェント選びは非常に重要です。
「SESからSESへ」の転職(いわゆる“堂々巡り”)をメインで扱っているエージェントに相談すると、自社開発企業の求人を紹介してもらえない可能性があります。
「IT専門」かつ「自社開発・Web系企業」とのパイプが太いエージェントやサービスを選びましょう。
SES脱出・自社開発転職におすすめのエージェント
テックゲート転職(Tecgate)

ユニゾンキャリア

ステップ5:面接対策:「オーナーシップ」をアピールする
自社開発企業の面接では、技術力以上に「オーナーシップ(当事者意識)」が見られています。
SESでの経験を話す際、「指示されたものを作りました」という姿勢(テイカー)では、評価されません。
「客先の課題(Why)」を自分なりに解釈し、「どうすれば解決できるか(How)」を考え、主体的に行動(Action)した経験をアピールすることが、SES脱出の鍵となります。
SES「現場ガチャ」に関するQ&A
最後に、SESエンジニアが抱えがちな疑問について回答します。
A. 感情的に辞めるのは危険ですが、準備はすぐに始めてください。
まずは、自社の営業担当に「現場を変えてほしい」と具体的に相談してください(例:「レガシー技術しかなく、キャリアプランと合わないため」)。
もし、そこで「我慢してくれ」「君のスキルでは次はない」といった対応をされるようであれば、その会社はあなたを守ってくれません。すぐに「優良SES」または「自社開発」への転職活動(スキルの棚卸し、エージェント登録)を開始しましょう。
A. 業務経験が浅い場合、ポートフォリオの重要性がさらに高まります。
スキルシートが書けない(例:テストばかりだった)のであれば、業務経験でアピールするのは諦め、「業務外(ポートフォリオや自己学習)でこれだけのことができます」という証明に全力を注ぎましょう。
20代であれば、業務経験よりもポートフォリオの質と学習意欲(ポテンシャル)で採用されるケースは非常に多いです。
A. 可能です。ただし、20代とは異なるアピールが必要です。
30代のSES経験者には、「技術力+α」が求められます。
「+α」とは、例えば「客先常駐で培った高いコミュニケーション能力」「小規模チームのリーダー経験」「後輩の育成経験」「業務知識の深さ」などです。
技術(モダン技術)はキャッチアップ中であることを前提とし、SIer/SESで培った「ポータブルスキル(業務遂行能力)」を強みとしてアピールしましょう。
まとめ:キャリアの主導権を「運」から取り戻そう
「SESの現場ガチャ」は、個人の運ではなく、業界の構造的な問題によって引き起こされています。
しかし、その構造を理解し、正しい対策を講じれば、キャリアの主導権を「運」から自分の手に取り戻すことは十分に可能です。
あなたが今すぐ取るべき行動
- 現状の会社を評価する: 本記事の「優良SESチェックリスト」を使い、今の会社が「優良」か「ハズレ」かを見極める。
- 「ハズレ」なら即行動: もしハズレなら、「優良SES」への転職、または「自社開発」への転職準備(棚卸し、学習)を今日から始める。
- 「優良」でも満足しない: 今の会社が優良でも、目指すキャリア(例:自社サービス開発)がそこになければ、準備を進める。
「ガチャに疲れた」と感じているなら、それはあなたのキャリアを見直す絶好のシグナルです。
まずは第一歩として、「自社開発に強い」転職エージェントに無料相談し、あなたの「スキルの棚卸し」を手伝ってもらいながら、市場価値を客観的に診断してもらうことから始めてみましょう。




